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福岡家庭裁判所飯塚支部 昭和50年(少ハ)2号 決定 1975年8月19日

少年 S・H(昭三〇・一・一生)

主文

少年を昭和五一年三月三一日まで中等少年院に継続して収容する。

理由

(本申請の理由の要旨)

少年は対人関係での極端な好き嫌い、自我が傷つけられた場合の攻撃的な構え、ヤクザつぽい顕示的なふるまい等矯正すべき性格や行動を有するが、これまで三回少年院内で暴行事件を起こし、その都度護慎処分に付されるなど矯正教育の効果は未だ不十分であり、六月二八日現在、一級下の処遇段階にあり、最終段階の処遇をするについて約三か月間を要する。また、少年の肉親には保護能力がなく、他に適当な身柄引受人もいないので、更生保護会に帰住させるのが相当であり、暴力団○○組に追われる立場にあるので、約六か月間保護観察により十分な保護を与える必要がある。よつて九か月間の収容継続を申請する。

(当裁判所の判断)

少年は、昭和四八年三月二七日窃盗非行により名古屋家庭裁判所豊橋支部で試験観察に付され、その結果、一応不処分になつたものの従前の怠惰で気ままな生活態度が改まらず、昭和四九年四月ころには福岡県田川市の暴力団○○組の組員となり、他の暴力団員とのけんかに自らも加わり、その際殺人未遂に問われた自組員に替つて自首した(犯人隠避)もので、右非行により同年七月一八日、当庁で中等少年院送致となり、同月二三日人吉農芸学院に入院し、少年院法一一条一項但書の収容継続決定を経て昭和五〇年七月一七日その収容期間が満了となる者である。

少年の性格、行動面での問題点は本申請の指摘するとおりであるが、少年は昭和五〇年五月ころから、自ら問題意識をもち、改善の意欲を示すようにはなつてきたものの、頼りなさ、あやふやな点も見受けられ、同年七月一日一級の上に昇進したばかりなので、前記問題点を改善し、非行性を除去するためには、さらに約二か月半の間、同院での矯正教育を受ける必要がある。

少年の実父は行方が分らず、実母はアルコール中毒で一日中寝て暮らしており、少年が帰住すべき家庭はない。少年が以前長く生活した筑豊地区に帰つても、就職先の目途も立たないし、田川市の暴力団○○組に発見され、かつて組を裏切つた(身替り自首の旨、自白したため、組長と真犯人が刑事裁判を受けることになつた)として、危害を加えられるであろうことは容易に想像できるところである。ところで、少年は、従前は手に職をつけておらず何度も転職したが、在院中大型特殊自動車の運転免許を取得(路上のみ)し、一〇月には建設工事現場での運転の技能検定試験を受験することとしており、合格の見込みも十分ある。一方同院としては一〇月中旬ころ、少年を仮退院させ得る見通しであり、更生保護会(熊本自営会)に帰住させることを考えており、同会もこれを受入れる用意がある模様である。また、少年自身も出院後の帰住先についてはあてがなく、同会に帰住し、前記免許を生かして更生と自立の道を歩みたい旨希望している。よつて、少年の資質、性格、家族関係、社会環境等に鑑み、少年の出院後の再非行の防止と、矯正教育の効果の維持、向上をはかるために相当期間保護観察に付する目的で、収容を継続したうえ、同院での前記矯正教育が一応終了するであろう一〇月中旬に仮退院させることは妥当であると思料する。

以上により、少年院法一一条四項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 大串修)

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